穴があったら、落っこちたい!

「はじめてのポキール」の感想

2003年11月27日

アタシはファミレスで中村うさぎの本を読みながらラザニアを平らげ、野菜ジュースを一杯飲んだ。その後、矢継ぎ早にアイスコーヒーを二杯おかわりし・・・

おっと、飲食中の方は、この先を読むべからず! 以前、この注意書きを怠ったために、「モニターにお茶を吹いてしまった」という苦情をいただいたことがある。何が起こっても責任は負いかねますぞ。(なにしろ今は製造ブツ責任法という厄介な法律があるからね)

“ボワーン”(ハンドドライヤーの音)

トイレで用を済ませて席にもどってみると・・・、ラザニアの器がキレイに片付けられていた。

『あ”っ』

いや、別にラザニアの器にこびりついたホワイトソースに未練があったワケじゃない。問題はテーブルの上に広げられたレポート用紙だったのだ。そのレポート用紙には、たった一言こう書かれていた。

犬のウンコ

『ウェイトレスのヤツ・・・見ーたーなー!』

(`ё´!

詳しく状況を説明しよう!

アタシは中村うさぎの【穴があったら、落っこちたい!】という本を読んでいたのだが、「はじめてのポキール」という話の中に問題の“犬のウンコ話”が書かれていたのである。

おっと、ここでまず、ポキールとは何かを説明せねばなるまい。ポキールとは、ギョウチュウ検査に用いるシールのことだ。ギョウチュウは夜中寝ているときに肛門の周りに這い出して卵を産む。だから、ポキールを朝起きたとき肛門に貼って検査をするのである。ポキールは貼ったあと再び裏紙のシートを戻せば、そのまま顕微鏡で見られるスグレモノだった。

小学校高学年のとき、アタシたちは「検便」からポキールへ移行した。何を隠そう、中村うさぎとアタシは同年齢なのである。だから当然、中村うさぎが小学生のとき体験したことは、そのままアタシも小学生のときに体験済みってワケだ。

しかし、問題の“犬のウンコ話”はポキール以前の話だった。つまり、「検便」というオゾマシイ検査が行われていた頃の話である。思えば、あれは非常に不潔な検査だった。中村うさぎの場合、マッチ箱に自分のウンコを入れ、それをランドセルで学校へ運ばされたらしい。赤いランドセルで・・・

一方アタシの場合、マッチ箱よりは幾分マシだった。化粧品サンプルぐらいの黄緑色をしたプラスティック容器にウンコを入れ、さらにそれをジップロックのようなビニール袋に入れて提出した覚えがある。

検便の容器

想像してごらん。その頃アナタが保健所に勤めていたらどうだったかを。

アナタは毎日、小学生のウンコが入った容器を次々に開けていただろう。コロコロしたチョコボールばかりならカワイイが、なかにはトンデモナイのがあったかもしれない。トンデモナイのがね。おそらくアナタは容器を開けるたびにドキドキしたはずだ。これはもはや無限地獄インファナル・アフェア)である。そう考えてみると、提出する側の苦労なんて屁でもなかった。たとえばどんな苦労をしたかというと・・・

実は、最後の話が【穴があったら、落っこちたい!】に書いてあったのだが、この話のオチは是非、本を買って読んでくれたまえ。いかにもありそうな話だったので、アタシは感涙にむせび、思わずレポート用紙に「犬のウンコ」と書いてしまったのである。

さて・・・

問題はファミレスを出るときだった。お昼時じゃなかったのでウェイトレスは一人しかいない。ということは、レジを打つあの娘が「犬のウンコ」を見た張本人ということになる。おそらく変なオジサンのレッテルをすでに貼られているだろうアタシ・・・

『どーする、どーする? まさに穴があったら、落っこちたい!

アタシはウェイトレスが笑いを噛み殺す顔を想像してみた。

『よーし、そのときはこう言おう』

「犬のウンコ!」

耐え切れなくなって吹き出すウェイトレス。

「見ーたーなー!」

そこでアタシは、本を指差しながら、まくし立てるのである。

「この本に書いてあったんだよ。すべては中村うさぎがイケナイの! 知ってるでしょ、買い物依存症のエッセイスト。このオバチャンが変なことを書くから、思わず書いちゃったの!」

『これでヨシ!』(なにがヨシなんだか・・・)

ここまでの筋書きを思い描いてからアタシは席を立った。するとやっぱり、あの娘がレジを打ちにやってくるではないか。

『負けるもんか、どっからでも、かかってきんしゃい!』

ところが、そのウェイトレスは何事もなかったかのようにレジを打ちはじめたのである。

『なーんだ、見てなかったのか・・・』(ガッカリしてどーする!)

アタシは自分の取り越し苦労のおかげで、思い出し笑いをしながらファミレスを出ることになった。

穴があったら、落っこちたい!(角川文庫)