今年一番の大物

1997年10月25日

先週はヘボな釣りをしてしまったので初心に戻ることにした。今日はニャン吉を従えてホームグラウンドの芦ノ湖に出発だ。ここのところ異常に温かく明け方でもまったく寒さは感じない。10月も終わりに近づいているというのにどうなっているのだろう。15年ほど前、この時期の芦ノ湖はガイドが凍りつくほどの寒さだったのに…。

椿の鼻のうしろ側右の写真はニャン吉が撮った湖尻からの眺めだが、まったく秋らしくない。水温も17.2度で去年の今頃より1度以上高く、日照り続きで水位も急激に下がっていた。

ボート屋はワカサギが減って困っているそうだ。そう言えばワカサギ釣りのボートはまばらだった。例年なら100艘以上のボートがひしめき合うはずなのに、20艘ぐらいしか出てない。

どうやら原因はスーパードリームカップに向けて10月から大量のマスを入れ続けることらしい。禁漁の3カ月間はワカサギの繁殖にも大きな影響があるのだ。特に今年、マスの放流量は空前絶後だったからワカサギの放流数が追いつかなかったに違いない。

本当は天ぷら用のワカサギを確保してから少しだけトローリングをする作戦だったが、ワカサギは釣れそうもないので作戦を朝からトローリングに変更せざるを得なくなった。しかし、今日はワカサギをメインにする予定だったのでバッテリーはひとつだけ。あいにくモーターボートは出払っているのでエレキでやるしかない。ピーンチ!

タイムリミットは約3時間。重いのを我慢して、もうひとつ予備のバッテリーを持ってくるべきだったと後悔する。

「あんまり状況よくないかもね」

「バッテリーが足りにゃくニャッタら船長漕いで下さいよ」

「南風が結構強いな。バッテリーの消耗が激しそうだ」

バッテリーを心配しつつ、Tomy はゆっくりと湖尻湾を時計と逆回りに回りはじめた。水深12から14メートルの湖底に大物の魚影をいくつか確認するが、湖底ギリギリなので難しい。朝っぱらからルアーをロストすると気分が悪いので最初は慎重にレッドコア3色、4色とジワジワ深度を深めていった。しかし、やっぱり深いところを狙わないとダメみたいだ。

「にゃかにゃか釣れませんね、船長」

「・・・・」

飯塚沖、椿ノ鼻、七里ヶ浜、どろやなぎ…。時間だけがむなしく過ぎ去っていく。もうかなり秋の放流は効いてくるはずなのに、反応がまったくない。ニャン吉は退屈して変な歌を歌いはじめた。

♪まいごの まいごの 虹鱒ちゃん♪

♪あにゃたのおうちは どこですか♪

♪スズメーに 聞いても わからにゃい♪

♪ぎょたんーで 見ーても わからにゃい♪

♪ニャン ニャン ニャニャン♪

♪ニャン ニャン ニャニャン♪

とうとう100回歌ってもアタリはなかった。

約2時間むなしいノーヒットが続く。南風が強く、逆風なのでバッテリーの消耗が心配だ。Tomy は立岩から樹木園に横断し、順風に乗って湖尻の桟橋周辺に戻ろうかと考えはじめた。

が! そのとき芦ノ湖最深部(ポイントマップ8番)の方で釣り人がボートから立ち上がるシーンを見たので大急ぎでそちらに向かった。

ミノーでヒットそして、ルアーを付け換えるために8色出していたレッドコアラインを巻きはじめた矢先、途中でガクンとショックが手に伝わったのだ。30センチとやや小ぶりだが、なんとかノーヒットを免れてホッと一息。

『これでパターンもわかったぞ! 今日のパターンは早引き・7色・ミノーだったのだ』

気づくのが遅すぎた感もあったが仕方がない。南風がますます強くなって、バッテリーのカラータイマーも点滅しはじめた。今度こそ湖を横断して対岸を順風に乗って流しながら帰らなければならない。Tomy は缶ビールのフタを開け、ゴクリと一気に飲み干すとエレキのスロットルを最高にした。

だが、運悪く最初の横断は観光船の接近でUターンを余儀なくされる。観光船をやり過ごして再度横断を開始。芦ノ湖最深部を通ってマリーナ沖に向かうのだ。ローソンで買ったクランチ・チョコをニャン吉と分け合ってサクサクかじっていたら…。

Ziiiiiiiiiiiiiiiii

突然ドラグがけたたましいうなりを上げて、S社の鯛竿が大きくしなった! 水深40メートルだから魚に間違いない。しかし、18ポンドのレッドコアラインを更に引き出して魚は止まらなかった。

エレキのスピードを1速に落としたらやっとリールを巻くことができるようになったが、かなりの大物に間違いなさそうだ。5色まで巻き取ったところで再び1色分引き出される。竿の振れ幅から見て50センチ以上はある。

「船長がんばって!」

「久々の大物だ。逃がすもんか!」

3分ほどして残り4色まで巻き取ったときに50メートル先でドジャーが浮き上がった。ドジャーの先には大きな三角の尾ビレが見え隠れしている。

「ニャン吉、こいつはでかいよ」

竿を寝かせてドジャーが浮き上がらないように注意しつつ、ボートを旋回させて慎重に魚を寄せていく。レッドコアを巻き終えると丸々と太ったニジマスが見えてきた。息が詰まりそうだ。

「す・すごい! スーパーデブだ!」

「ニャン吉、サーモンネット! 早く!」

♪スーパー デーブ!♪

♪ジャンプー しにゃいでぇ えー♪

「バカな歌 歌ってる場合じゃないよ。ASHINOKO ONLINEはじまって以来の大物だぞ!」

「すいません。まじめにやります」

「あっ!」

ランディングボートから3メートルぐらいまで寄せたときに、そのニジマスは1メートルぐらいジャンプした。危なかった。またジャンプされたらバレるかもしれないので、さらに慎重にドラグを緩めてしばらく泳がせる。無抵抗になるまで更に2分ほど引きずって弱らせた。そして最後はニャン吉の差し出したサーモンネットに頭から引きずり込む。

『やった、ついに出た!』

それは Tomy にとって芦ノ湖での今年一番であった。60センチ、2.5キロ。長さはそれほどでもないが、体高があり尾ビレも丸まっていないスーパーサイズだ。これぞレイクトローリングの醍醐味だね。Tomy はニャン吉と堅い握手を交わし、サッサと道具を片付けはじめた。

バッテリーの残りが少ないから早く帰ろう