
1998年3月23日
春である。誰が何と言おうと春なのである。
そして、春はマス釣りの季節ときている。多少潮臭くはなったが、Tomy は、やはりマス釣りが好きだ。天気さえ良ければじっとしていられない。
先週は風に泣いたが、今日は微風で晴れ間ものぞくという。だから今日こそ敵討ちなのだ。平日だろうが何だろうが知ったこっちゃない。万字ケ池のベストシーズンはたった今なのだから…
“万”という字をよく見てご覧。何かに似ていないか? おお、よく知っていたな。そうなんだ。芦ノ湖の形に似ているよね。
むかしむかし、芦ノ湖は“万字ケ池”と呼ばれていたのだ。険しい箱根路を登ってきた旅人はさぞかし万字ケ池の美しさに感動しただろう。そして今も、その美しさはそこなわれることなく残っている。素晴らしいじゃないか!
こんなに美しい湖はそうそうありゃしない。特に春は魚もたくさんいるし…
10:30
Tomy は湖尻に到着し、馴染みのバイオレットに入っていった。
「あれっ! また来たのかよ、やみつきだな」
「先週ボウズ食らったから復讐戦さ。待ってろよ!」
今日は魚探なし、エレキもなし。
『フライロッド1本で勝負してやる!』
Tomy はローボートを借りると早川沖まで漕ぎ進んでいった。南の風、微風。気温6度。やや肌寒い。
アオミドロというのは芦ノ湖必携フライである。元箱根の野崎氏が考案し、多くの釣り人に幸せをプレゼントしてきた。レッドワイヤーとマラブーだけのシンプルなフライだが、絶妙な泳ぎはまさにヒメマスの稚魚そのものだ。
しかし、あえてこのフライは使わない。いや、使いたくない。釣れて当然のフライで釣っても何か物足りない。Tomy はスティールヘッド用のフライボックスを取り出して、まずはグリーンバット・スカンクを結んだ。
ラインはユニフォームシンク・タイプ3。秒速約8センチの沈降速度である。
カウントダウン20秒、40秒、60秒、80秒。アタリがなければ次のフライにチェンジしていく。カネマラブラック、ミセスシンプソン、シルバーグレイ、ピーターロス…すべて6番。
周りを見回しても誰も釣れない。昨日までの冷え込みでまだ活性が鈍いのか? タバコに火をつけてゆっくりカウントダウン。ミューシリン・クイックシンクを濡れた指でこすり、溶け出したヌメリをラインにからませながらリトリーブする。
12時のチャイムが鳴ったが、いまだノーバイト。しかし、まだまだチャレンジャーはフライのサイズを落とさない。ブループロフェサー、ブラックリーチ、パープルスペイ、エッグサッキングリーチ…
『えーい! これでもか!』
ダメだ。まったく反応がない。仕方なく場所を少し移動。それまでは水深6メートル付近にいたが、思い切って沖へ出た。水深約9メートル、早川の水門から約100メートルの位置。
岸で釣っているエッサマンの仕掛けにレギュラーサイズが来た。ウキ下は2メートルぐらいか?
『魚が浮いてきたかもしれない…』
その後、フライマンが早川沖をハーリングしてレギュラーをヒットさせるのを見た。
『…ということは3メートル前後のレンジか?』
カウントダウンを40秒前後にして更にキャストを続ける。このころになってくるとかなり調子がでてきた。ロッドは“ビシュッ”と風を切り裂き、水面を這うようなタイトループができた。
シュート! ターンオーバー。スラックをとってカウントダウン。ブルー・ブルース、アレキサンドラ、グリズリーマツーカ、ラビットファーゾンカー…
『えーい! これでもか!』
“ズシッ!”
ようやく来た。40センチ弱のレインボーだが、やけに元気がいい。かかった途端に浮き上がってジャンプ! ロッドを寝かせて素早くラインを手繰る。
『ひゅー! またジャンプだ。気持ちいいぜ』
しかし、その後またしばらく時が流れていった。そこで、なんとなく釣れそうなフライを3種類に絞ることにした。カネマラブラック、シルバーグレイ、ラビットファーゾンカーの3種類だ。
リトリーブは30センチずつシュッ、シュッ、シュッ、シュとかなりのスピードで手繰る。ハーリングで釣れるのだから歩くスピードでいいはずだ。
“ズシッ!”
またラビットファーゾンカーに当たった。ファーは薄いオリーブ色、ボディーがマイラーチューブのやつである。
ジャンプ! ひゅーひゅー! こいつもなかなか元気がいい。銀ピカの回遊ニジマスだ。ヒレがピンシャンでウロコがギラギラ光っている。放流直後のぞうきんマスではない。