長井港を出た船はトロトロと西を目指した。いつも乗っている庄治郎丸と比べると、半分のスピードも出ていない。速い船に乗り慣れているから、ちっぽけな漁船は余計に遅く思えた。
「いつになったらトップギアに入れるんだろうね?」
「こんなスピードじゃ鳥山を見つけても間に合わないよ」
隊員達がそんなことを話し合っていると、朝もやの彼方に江ノ島が見えてきた。でも、見えてから正面を通過するまでが長いこと長いこと。いつになったら釣りが始まるか、わかったもんじゃない。張り切って早起きしてきた隊員達は1人、また1人と居眠りをはじめた。
まだ釣り場に着くまで余裕がありそうだ。それでは、ここでちょっと生きイワシの扱い方を説明しておこう。
ご覧のようなイケスが船の前甲板に2つある。カツオを見つけたらそばにあるチビ玉でイワシをすくい、2、3匹各自のバケツに移す。活きのいいイワシでないと食いが落ちるから、たくさん入れすぎてはいけない。
炎天下ではすぐにバケツの水がぬるくなってしまうのだ。イワシがなくなったら水も新しくする。そうしないと…べらんめぇオヤジの罵声が飛んでくるだろう。
港を出てからおよそ1時間でようやく茅ケ崎沖まで到達した。船は更にエボシ岩をかすめるように西に向けて走っていく。
「せっかく長井まで行ったのに戻ってきちゃったね」
「灯台下暗しだよ」
湘南ロケッツの本拠地、平塚はもう目の前だった。近くで釣るなら帰りは平塚港で降ろしてもらったほうが早そうだ。帰りの渋滞を考えると、およそ5時間の時短になるだろう。
真剣に平塚港で降ろしてもらうことを考えていたら、突然エンジン音が変った。茅ケ崎沖500メートル。サバかキスを釣るようなポイントである。
『何だ何だ? こんな岸の近くにカツオがいるのか?』
グウォン グウォン ドゥルルル・・・・・
船は茅ケ崎港の岸壁に向けて一気に加速した。どうやらこれが本当の最高速らしい。岸壁までおよそ300メートル、200メートル…
『何だよ、オヤジのやつ腹でも痛くなったのか?』
「イワシを2,3匹ずつバケツに入れるだ!」
そう言うとべらんめぇオヤジは船を止めてイワシをすくい、左舷の方に撒きはじめた。
『おっ! ついに戦闘開始か? よおし! 湘南ロケッツ、 いくぜ、いくぜ、いくぜ!』
まずは1匹釣らなければ話にならない。ここはひとつオヤジの言う通りにイワシ餌でやってみよう。Tomy はイワシの背中に素早くハリを刺してラインを送りだした。ABU7000 に巻かれた PE ラインがチョロチョロと出ていく。
『おっ! きたか?』
ズズンというという手ごたえがあったのでラインを持っていかせた。
『そろそろいいだろう』
十分にラインを送ったところでリールを巻くと小気味いいアタリ。でも、上がってきたのはサバだった。
「サバに混じってメジがいることもあるだよ!」
オヤジがそう言うので一生懸命釣った。しかし、釣れども釣れどもサバばかりだった。特に DAD A隊員はジグで入れ食い。サバでも入れ食いなら楽しい楽しい。少なくとも津久井湖でスレバスを釣っているよりはマシだろう。この場面ではジグの手返しが勝り、DADA 隊員がサバの竿頭になった。
「イワシがなくなっちゃった。イワシ、イワシっと」
エサがなくなったので Tomy がオヤジにイワシをもらいに行くと…
「バカ! 自分ですくえ!」
ムチャクチャ怒られた。
そして…
ここではサバしか釣れなかったので更に移動する。隊員達がサバの血抜きをしていると、操縦席に上ったオヤジが振り向いて何かしゃべりはじめた。
「きのうはこの辺にこーんなキメジが入ってきてただ!」
オヤジの手は肩幅よりはるかに広げられていた。ホントだとすると10キロオーバー間違いなし。湘南海岸から200メートルの沖合までキメジが来るなんて…。隊員達のヤル気はサバの攻撃で一旦衰えたが、すぐに回復した。
そして、船が平塚港と大磯港の中間に来たときだった。右舷大ドモに座っていた Tomy がナブラを発見!
「せ・船長、右後ろにナブラです!」
べらんめぇオヤジは無言で振り向くと、ナブラの進行方向を確かめて面舵を一杯に切った。
グウォン ブロロロロォ〜
全員大急ぎでイワシを用意。そして、オヤジの合図で一斉にイワシを投入した。
PE ラインを使っていると小さなイワシの動きさえ手に取るようにわかる。イワシは必死に船底へ隠れようとしているようだった。竿を操ってイワシを船底からはがさなければならない。
1分経過、まだ来ない。イワシの手ごたえが薄れてきた。そろそろエサを替えねば。Tomy
がバケツのイワシを取ろうと振り向くと…
「あっ! イワシマン」
イワシマン@日野のロッドが強烈に絞り込まれている。腰をためて必死に耐えるイワシマン。ラインがグイグイ引きだされていく。カツオの動きが鈍くなったところで巻きにかかる。しかし、いくらも巻かないうちに2度目の絞り込み。
「あわてんな! ゆっくり!」
カツオの引きはシイラとちょっと違う。とにかく弾丸のように一直線に走るのだ。ジャンプはしないが、スピードはかなり速い。ドラグの設定を緩めにしておかないと最初の走りでラインを切られてしまうだろう。
だが、オフショアの鉄人イワシマンはさすがに冷静だった。慌てず騒がず着実にカツオを弱らせていく。およそ3分半のファイトで2.5キロを見事に取り込んだ。
釣ったばかりのカツオはシルバーグレイとマリーンブルーのツートーンカラー。まるで宝石のような輝きだ。『うぅー、俺も早く釣りたい! うらやましすぎる!』 誰もがそう思った。