干潮から1時間が過ぎようとしていた。燗番娘が心地良い眠りを誘い、2時間ちょっとの時間でも熟睡できたようだ。クルマの外ではあいかわらず猫が走っている。どうやら犬走りというのは島の形を形容したものらしい。ヒョッコリひょうたん島をこんもりさせた感じだが、動物の走る姿に見えないこともない。

Tomy は4時40分に再び釣りを開始した。…が、さっきより風が強い。時折風速10メートルほどの突風が南から吹き付けはじめたのだ。夜明けまでは2時間、このまま風が治まらなければ朝まで粘っても無駄だろう。
もう5ハイ釣っているし、このまま帰るのも悪くない。Tomy はあと1匹釣れたら帰ろうと心に決めた。潮時から判断すると、夜明け間近が最も可能性があると思うのだが、突風で竿先をあおられて微妙な底の変化が感じられなくなった。
『ズル引きじゃダメだ。シャクリに変えよう』
底を取れないならシャクリで誘うしかない。Tomy は5時過ぎからしゃくってポーズ、しゃくってポーズという誘い方に切り換え、1投毎に5歩ずつ島の方へ場所を変えていった。
しゃくってポーズ、しゃくってポーズ。しゃくって… ん? しゃくれない。根掛かりか? お? おお? 海底がはがれた…。こ・これは!
今まで味わったことがないアタリだった。アオリイカがロケット噴射で沖に逃げようとしている。す・すごい推進力だ。ドラグがチリチリと音をあげてロケット噴射1回で1メートルぐらいラインが引き出されていく。
3回リールを巻くと3回ロケット噴射。一進一退しながらも少しずつアオリは近づいているようだ。かなりの大物に間違いないだろう。早く姿を見てみたい。ラインを緩めないように注意しながらヘラブナ用の玉アミを手元に引き寄せた。
『取り込みでミスったらシャレにならない大物だ!』
Tomy は慎重にアオリを引き寄せ、左手でヘッドランプを点灯した。頭を左右に振ってアオリイカを探す。
『で・でかい! ローソンの手提げ袋ぐらいあるぞ!』
“バシュー バシュー”
アオリイカは水面で勢いよくロケット噴射を繰り返した。すごい推進力で再びドラグが逆転する。
『どうしよう、堤防に腹ばいにならなければ玉アミが届かない』
少し強引にアオリを引き寄せ、堤防の真下へ誘導する。『右手にロッドを持ったままではラインが緩んでしまうだろう』そう思った Tomy はロッドを下に置き、右手でラインをつかんで堤防に腹ばいになった。
と、そのとき!
“バシュー バシュー”
再びアオリが水面で勢いよくロケット噴射をしたのだ。とっさに右手に持ったラインを送り、最後のあがきをやり過ごした。しかし…、慌てた拍子に左手に持っていた玉アミは海面に転がり落ちた。
『ヤ・ヤバイッ!』
Tomy に危機が迫った。こうなったら手で手繰り上げるしかない。そぉーっと、そぉーっと、アオリを驚かさないように2.5メートル下からアオリを手繰り寄せる。そぉーっと、そぉーっと…。
やった! アオリがしっかりエギを抱いていたのでうまく上げることができた。見事な大物だ。1キロ近くあるだろう。刺し身6人前は楽勝じゃ!

良く見るとエギには深い傷があった。布が1センチぐらい食い破られている。3.5号のエギをひと飲みにするほどコイツはでかかったのだ。本当に素晴らしい引きだったよ。玉アミもエギを数回投げたらうまく回収できて大成功。Tomy はアオリにスミを吐かせる間、あと3投ほどエギを投げて納竿した。
正味3時間の釣りで6パイ。トータル1,890グラムには大満足だ。エギの犠牲も1本で済んだし、前回よりだいぶ進歩した。肝心なのは潮が動いている時間帯に狙いを絞って集中力を高めること、そしてシャクリだ。ズル引きで釣れたのは6パイ中、たったの1パイだったからね。
ピンクだけじゃなく、オレンジや青を使ったのが良かったかもしれない。そして、オモリを削ってスローなエギにしたのも効果的だったのだろう。狙い通り、いや、それ以上の結果だった。
あなたもこれを読んだら黙ってはいられないだろう。きっと南アオリの歌を口ずさみながら犬走堤防に立っているはずさ。
当分アオリ熱は続く…