位置悪の下田

石川啄木のパロディー

2000年6月16日

Tomy は度重なる失敗にもめげず、再び“開国の港町”下田に向かった。狙いはもちろん、UMO の正体を暴くことだ。

今回は Tarojiro 隊員の協力を得て、ワンタッチ・ヤエンなどの最新兵器を揃えている。しかも、ほぼ満月で風も弱い。今日こそは UMO を仕留める絶好のチャンスだろう。

来月から ASHINOKO ONLINE もオフショア・シーズンになる。だから今回をもって UMO 調査隊は一旦終了しなければならないのだ。シリーズの最後は是非! UMO をカメラの前に突き出して、にっこり笑って締めくくりたい。

午後5時、一足先に下田に着いた Tomy はエサ用の鯵や食料を仕入れて犬走島堤防に向かった。6時に第一投、じきに陽が沈み、満月の明かりが堤防をふわっと包み込んだ。風は湿って心地よい磯の香を運び、湾内には所狭しと赤い電気ウキが並んでいた。

7時頃、約束通りT大学釣魚部の後輩、ケブラー函南(かんなみ)が犬走島堤防に到着。彼は今、伊豆のケーブルテレビ局に勤めている。自宅は東海道線の熱海と三島に挟まれた函南(かんなみ)にあり、イカ釣りには持って来いの住環境。ケブラー函南は過去に3キロオーバーのアオリイカを仕留めたこともあるそうだ。伊豆の堤防を知り尽くした心強い味方の初登場である。これでみなさんは秋のシーズンも ASHINOKO ONLINE に釘付けだろう。

「ケーブル回線で繋ぐと、重いページもアッという間に表示されるだろうね」

「ええ、快適ですよ。たまにモデムで繋ぐとイライラします」

「電話代を払わなくていいのが魅力だな」

「伊勢原にはないんですか?」

「残念ながら、我が家は圏外なんだ。毎月 NTT に2万以上払ってるから、ケーブルテレビは魅力的だけどね」

「テレビの方は CS に押されてますけど、常時接続で電話代がかからないから、インターネットの利用者は増えてますよ」

「Web Page のスペースもあるの?」

「10MB ですけどね。先輩のページは無理ですけど、普通の人には十分でしょう」

「月の利用料は?」

「4000円です」

うらやましー! 接続はケーブルテレビにして、大容量のレンタルサーバーを借りた方が僕にとっては安上がりだな」

「伊豆に引っ越してくださいよ。使えますから」

ケブラー函南(かんなみ)

午前1時までに、何度かチャンスがあった。特に惜しかったのはケブラーの竿に9時頃来たヤツだ。缶はコロンと静かに倒れたのだが、その後の走りは凄まじかった。1分ほど待って取り込みにかかると、11フィートのシーバスロッドが限界近くまで曲がったのだ。

根掛かりではない。徐々にだが近づいてくる。竿の曲がりから判断すると、3キロ超も夢ではなさそうだった。しかし、あと一歩のところでヤツは抱いた鯵を放した。急にテンションを失って倒れそうになるケブラー。

「そのまま巻かずに置いとけ。すぐに来るかもしれない」

だが、2度とヤツは乗ってこなかった。鯵を回収してみると、まだ食った形跡がなかった。引き寄せにかかるのが早過ぎたのだ。

「缶が倒れてからカップヌードルを作るぐらい、余裕をみてもいいのかな?」

「大物は約3分で中鯵を食い尽くしてしまうらしいぞ」

「水族館でアオリイカが生きた鯵を食べるシーンを撮影したことがあるんですけど・・・そのときは約1分で頭を落として、その後けっこう時間をかけて食い尽くしましたよ」

「頭は食べないのか?」

「ええ、下に落としてましたね」

「美味しいところだけ食べるのか・・・贅沢なやっちゃなー!」

午前1時、Tarojiro 隊員が到着。しばらく歓談したあと、ケブラーは自宅に帰っていった。

「Tarojiro 隊員、ごくろう」

「今日はコンディション最高だと思ったんですけどね」

「いや、これからだよ。UMO が本格的に活動を開始するのは丑三つ時だ」

午前4時30分、すでに夜が明け、東の空が茜色に染まった。

「朝焼けは雨の前兆だ。じきに雨が降りだすだろう」

“カランッ”

「缶が倒れましたね。うわぁー! 出てく出てく、凄いスピードですよ

ウーモーだぁー! タバコを吸いはじめるから、吸い終わるまで放っておくんだ」

「大丈夫、根には巻きついていないようです。近づいてきます」

「よしっ! ワンタッチ・ヤエンを投入しよう」

“シュルシュルシュル・・・”

ワンタッチ・ヤエンが水中に没し、ラインがピーンと張った。

「届いたでしょう。思いっきりアワセますよ」

「竿が折れるばぁ、しゃくるがよ!」

“バツッ!”

「あっ! あ”ー」

「うぅ! しまったぁー」

結局これが最後のチャンスだった。UMO 調査隊の成果は、Tomy が名も知れぬ小ガニを1匹上げただけだ。今は往復7時間の運転と徹夜の疲れが重くのしかかっている。ボウズで帰るには下田はあまりにも遠い。

つまり、下田は位置が悪い。だから「位置悪(あく)の下田」なのである。それでは今日一日を石川啄木流で締めくくってみよう。

位置悪の下田

黒船の

汽笛なつかし

いぬばしり

渋滞の中を

そを聴(き)きにゆく

*

函南(かんなみ)で

我が大学の

後輩が

AOLを読みて

参加申し出る

*

その昔

下田の海に

根掛かりし

われ投げしエギ

いかにかなりけむ

*

何処(いづく)やら

UMO の住み家へ

運ばれし

刺し身用の鯵

今日(けふ)も根掛かり

*

堤(てい)に臥(ね)て

おもふことなし

わが額(ぬか)に

やぶ蚊よろこび

痒(かゆ)さたまらず

*

あはれ友

タロジロさんは

堤防で

やぶ蚊のえじき

手足ボコボコ

*

いのちなき

鯵のかなしさよ

グシャグシャと

握れば指の

あひだより落つ

UMO の攻撃は執拗だった

東海の

小島の脇の

堤防に

われ泣きぬれて

*

夢やぶれ

クーラー背負ひて

そのあまり

軽(かろ)きに泣きて

三歩あゆまず

*

呆(あき)れたる

母の言葉を

静むため

ドライブインで

塩辛を買ひ

*

犬走れど

犬走れど猶(なほ)

我が家の氷室(ひむろ)

イカが減りゆく

ぢっと手を見る

*

ふがひなき

わが日(ひ)の本(もと)の

選挙戦

野党の連呼

神の国かな

*

海の家

伊豆の浜辺の

そこかしこ

アオリの季節

ここに終わらん

*

晩飯や

刺し身のはずが

ままならず

投げし鯵の数

指折り数える

*

くだらない

日誌を書きて

よろこべる

男憐(あは)れなり

梅雨時の部屋