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一陣の風、舞い上がる雪けむり。2人のレーサーがアンコウ達の前を通り過ぎて行った。時速70キロは出ているだろう。ほとんど直滑降に近い高速パラレルだ。おかげで雪けむりをかぶってしまった。
「あいつらには付きあってらんないね」
アンコウは COOL に言った。彼は富士子のスキーにピタッと自分のスキーを揃え、ゲレンデの脇に止まっていたのだ。その他の4人は初心者で、トコロを中心にヘッポコ・スキーを楽しんでいる。
「スキーはもっと優雅に楽しまなくちゃ。わかってないね」
そう言うとアンコウは右手を上げ、舌打ちしながら人差し指を左右に振った。そして、左足1本でスキーに乗って見せ、富士子を驚かせた。
「へぇー、アンコウ君て、けっこう上手いんだぁー」
富士子にそう言わしめるのがアンコウの作戦である。アンコウは頭の先っちょにピロピロ動く猫じゃらしのようなものが付いているだろ。 人間のアンコウもそうやって獲物をおびき寄せるのさ。
アンコウは女の前では声まで変えてしまう。いつもは「にゃは・は・は・」なんて大口開けて奇妙な笑い声を上げるくせに、声を押し殺し、あくまでも COOL に、装うのである。もちろん大きな口もすぼめて・・・
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富士子も一応スキー部だが、彼女のスキーはお姫様スキーで、非常にトロかった。だから、ガンガン滑りたい Tomy は、最初こそ富士子とペアリフトに乗ったものの、2度目からはすべてB子と行動を伴にしていた。当然、富士子達とは別行動だ。
だんだんと、一行は3グループに分かれはじめた。そうすると当然ペアリフトに乗る相手も固定してくる。Tomy 達の目標は昼までにリフト20本以上。彼等はたまに様子を見に来る程度で、他の6人とはまったく別行動だった。
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ここのメインリフトはかなり高速だが、終点まで9分もかかる。長いだろ? 女を口説く時間は十分にあるのさ。
「富士子ちゃん、まだ外足から内足へ、体重の移動がスムースじゃないね。もう少しヒザを前に突き出すような感じで」
「うーん、そうそう。そんな感じだよ」
アンコウはベラボーに優しい男に変身していた。富士子のヒザやヒジにタッチして、スキンシップをはかろうとしている。まったく、油断もスキもあったもんじゃない。
おまけに、ここのペアリフトは物凄い谷の上を通過するときている。大抵の女の子はここで恐がるだろう。ネットが張ってあるから、たとえ落ちても死にはしない。しかし、ネットがもしなかったらお尻の下には50メートルぐらい何もないのだ。
チャーンス! アンコウは恐がる富士子の肩をそっと抱き寄せた。あくまでも自然を装って。
「大丈夫だよ、僕がちゃんとついてる。目をつぶってなよ…」
アンコウは尻の毛がムズムズするほどきざなセリフを平然と言い放ったのだ。
「Tomy 船長、スピード違反だっち。アブネェーじゃねぇ!」
トコロが得意のトコロ弁で女の子達を笑わせた。トコロたちは2、3回シュテムターンをしては立ち止まるから、なかなか先へ進まない。トコロは女の子達に優しくて、こういう時は頼りになるエンターティナーだ。Tomy が初心者の面倒を見なくて済むので、大いに役立っていた。
しかーし、トコロはスキーを靴の代わりに履いているに過ぎない。彼にとってスキーは雪の上を歩くための“長い靴”でしかないのだ。無駄な力を使っているから、すぐに疲れてしまう。だから、リフトに4回乗れば、そろそろお茶の時間。すると、ちょうどうまいところにレストランが待ち受けている。
国土計画はトコロのようなスキー客が大好きだ。Tomy やB子みたいな客ばかりだったら赤字に転落してしまうだろう。トコロ達ヘッポコ・スキーヤーはレストラン・アリエスカにしけこむと、2度と出てこなくなった。(まったくもう・・・)
それにしても国土計画の社長、堤氏はスキー場建設がうまい。堤氏はヘリコプターで気持ちよさそうな斜面を捜して回り、自ら場所の選定をしたそうだ。そしてヘリコプターで各スキー場を巡回し、自らコースを一周して、あらゆる所をチェックする。そして、少しでも気にさわる箇所があったら従業員を容赦なく叱りつけるらしい。
堤氏はメチャクチャ恐いのだ。従業員は自分の持ち場を毎日丹念にチェックしなければならない。そうしないと・・・
お客さんの立場に立ってあらゆる点を心地よく改善する。これは Web ページの作り方にも当てはまるだろう。いろんなレベルのスキーヤーが来て、いろんな楽しみ方をするのがスキー場だ。ナンパが目的の奴もいれば、ガンガン滑るのだけが楽しみの奴もいる。どのレベルのスキーヤーにも楽しんでもらえるスキー場はザラにない。まったく、たったの8人でもこれだけスキーの楽しみ方が違うのだ。スキー場建設という仕事は本当に頭を使う仕事であろう。
しかし、それをやってのけるのが堤義明なのである。彼が Web ページを監督すれば、きっと完璧なものを作るに違いない。
*
さて、昼時である。レストラン・アリエスカで待ち合わせの時間だ。Tomy とB子、続いてアンコウ達がレストランに入ってきた。レストランは混み合っていたが、トコロ達がしっかり席を確保していた。・・・と言うより、根を下ろしていたと言ったほうがいいかもしれない。
さて、食事のあと。今度は Tomy とB子が初心者の指導をすることになった。彼等は午前中たっぷり滑ったので、既に1日券の元を取ってしまったのだ。Tomy とB子のスパルタ教育でA作、C子、D子はビシビシしごかれ、3人はなんとかシュテム・ターンを身につけることができた。
「あれれ? トコロはどこへ行ったんだ?」気がついてみるとトコロの姿がどこにも見えない。
*
トコロはレストランでビールを3本飲んで無駄な力がスッと抜けた。そして、見違えるようなスピードで滑りはじめていた。もう怖いものなんてありはしない。彼は無謀にも Tomy の真似をして緩斜面を直滑降していったのだ。そして・・・
彼の体は空中で分解した。小さなコブでバランスを失い、スキーのテールを新雪に引っかけたのだ。トコロは思いっきり足をひねった。
「い・痛てぇっち!」
トコロはその場にうずくまると、Tomy 達が助けに来るまで動けなかった。彼は右ヒザのじん帯を伸ばしてしまったのである。
「仕方ない、トコロの治療をして宿に引き揚げよう」
Tomy はそう言うとトコロをおぶって医務室に向かった。トコロのスキーはB子がそば屋の出前みたいな格好で担いでいく。
「船長、スマネチ」
まったくトコロはこんな時にもギャグを飛ばすのだから油断できない。Tomy はおかしくて、ヒザの力が抜けそうになってしまった。Tomy は必死で笑いをこらえ、斜面を滑り降りた。
トコロの治療が終り、一行は宿に向かう途中、酒屋に寄ることになった。各自好きな飲み物や、お菓子を買おうというワケだ。Tomy とB子は汗をかいたのでビール、トコロは缶チュウハイを3本頼んで車に残った。
「トコロ君はやめといたら?」富士子がたしなめると、「麻酔せにゃー!」とトコロがやり返す。こいつはどこまでオバカなんだろう。足が痛くても口はまったく衰えを見せなかった。
およそ10分で買い出しは終わった。いよいよ物語は惨劇の舞台、民宿寒川屋に所を移す。
次のページは夕方の雰囲気だ。