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読者諸君、耳を澄ませてよーく聞け。
今回の話はいつものバカ話とはまったく違う。
ミンミンゼミ事件は身の毛もよだつ、恐ろしい話なのだ。
最初の方は怖くない。しかし…

プロローグ

Tomy は8人乗りのワンボックスカーを借りて、明日からのスキー旅行に備えていた。彼の運転で男女8人が表万座スキー場に向かうのである。

登場人物を簡単に紹介しておこう。まずは、大学時代からの釣り友達アンコウ。そして、Tomy を慕う子分のトコロ。さらに、もうひとりの男、A作。女性陣は Tomy のガールフレンド富士子、その他にB、C、D子である。登場人物が8人の割には簡単だろう。4人の名前さえ覚えてくれれば話が進むのだ。

それでは Tomy 以外の3人について、少しだけ予備知識を仕入れてもらおう。まず、アンコウ。アンコウは Tomy の親友である。しかし、Tomy とはかなり性格が異なり、接点は釣りが好きということだけ。

彼は釣りよりも、スキーよりも女性を愛するタイプ。一方の Tomy は女は二の次、三の次というタイプ。スキーをやっている時は、宮沢りえだろうが飯島直子だろうがどんなイイ女も目に入らない。

“斜面をいかに克服するか”・・・それ以外、何も考えていないのだ。

次に富士子を紹介しよう。彼女は Tomy と同じ会社の本社勤務で、女優でいうと万田久子に似た感じだった。髪が長くて非常に女性的。グラマーではないが、なかなかセクシーな女性だ。

最後にトコロ。彼は Tomy より3歳年下のヤサ男である。ニックネームの由来は所ジョージ。頭が特別いいわけじゃないし、運動神経も見た目ほど良くない。スキーの腕なんか Tomy の足元にも及ばなかった。

しかし、彼は天性のツキを持った男だ。大学時代に1000万円の宝くじを引き当てたり、NTT 株を2株買い、ほぼ最高値の300万円で売り抜けた経験がある。しかも、株に手を染めたのは後にも先にもこの時だけ。“バブル崩壊もどこ吹く風”というまったく信じられないほどのツキ男だ。

そのトコロが、なぜか Tomy の子分になってしまった。この理由は今になって考えてみると『なるほど・・・』と思う。多分、トコロは Tomy のそばにいれば、チャンスに恵まれることを本能的に感じ取っていたのである。

そう。多分そうに違いない。Tomy は女の子をたくさん呼んでスキーに行ったり、バーベキューをすることがよくあった。Tomy は決してモテるワケではないが、女性達は Tomy の誘いに気軽に応じてくれたのである。

何故かというと、Tomy に下心がミジンもないことがバレバレだったからであろう。女性はカンが鋭い。たとえばアンコウやトコロが女の子をスキーに誘ったとしたら・・・、それはもう下心丸見えのイヤラシイ誘い方になってしまったはずだ。

ところが、Tomy の場合は純粋にスキーやバーベキューを楽しむことしか頭にないときている。彼はスキー場に着くやいなや、弾丸のように滑りまくるのだ。(女の子の相手はトコロ達に任せて)

そう考えてみると、トコロは Tomy に寄生していたのかもしれない。トコロの会社には女の子がほとんどいなかったことから考えても、この仮説は十分に立証できるだろう。

だいたいこれで人物紹介はできた。それでは先を急ぐぞ。

第一幕 1987年1月

8人がそろったのは午前3時を回ったころだった。Tomy は日産ホーミーを巧みに操って女性達を自宅まで迎えに行ったのだ。関越自動車道を経て、渋川伊香保ICで国道に下り、万座鹿沢口へ。表万座スキー場に着いたのは、まだ薄暗いうちであった。

トコロが得意のジョークを飛ばすので、車中はなごやかな雰囲気に包まれている。初参加のアンコウやA作も、すぐに打ち解けて車内は盛り上がっていた。トコロのおかげである。

*

表万座スキー場のリフトは長い。所によっては1km以上もある。女の子と2人きりで話しをしたければ、このスキー場に限るだろう。特にグループでスキーに行く時はオススメである。素早くお目当ての子とペアリフトに乗れば、デートの申し込みをするだけの時間が十分にとれるのだ。

こんなことは、どのスキー情報誌にも書いてない。ASHINOKO ONLINE を見ている者だけが得られる貴重な情報だろう。わざわざ数あるスキー場の中から表万座を選んだ理由・・・。それは、アンコウやトコロに会社の女性達を紹介するためだった。

さて、夜が明けてリフトが動き出した。このコースは長いので Tomy とB子以外は全員が回数券を購入。そして、Tomy とB子だけが1日券を買った。実は Tomy とB子はスキー部の幹部なのである。美しい滑りとは言えないが、恐いもの知らずの滑りはスキー場で目立っていただろう。

このスキー場はコブがほとんどなく、Tomy とB子が大好きな高速コースである。2人になると、Tomy とB子は高速パラレルで意地になってスピードを競いあった。まさに死に物狂いの闘いである。

B子も Tomy に輪をかけてオバカだから、「もうやめよう」なんて絶対に言わない。B子は Tomy が転倒した時のみ勝つことができるのだが、そんな時は勝ち誇って「やりーっ!」なんて叫びやがる。

『まったくとんでもない女だ』

しかし、B子の名誉のために言っておこう。B子が写っている写真をスキー仲間に見せると「この人だれ? カックイーじゃん!」と必ず言われる。

確かにB子は、なかなかカッコイイのだ。しかし、「カックイー!」と言うのは決まって女の子だった。B子は男が着てもおかしくないエレッセのツナギを着ていたのである。

次のページは白銀の世界だ。


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