Gussulin

雀鬼

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「兄ちゃんたちぃー、いっちょ、つまむか?」

ツモ!N男ちゃんは麻雀パイをツモル恰好をしてニヤッと笑い、待ってましたとばかり車に積み込んだ麻雀マットとイカ用の木箱をテントに持ち込んできた。

そして、N男ちゃんはうれしそうに木箱を4つ組み合わせて即席のテーブルを作り、その上に麻雀マットを広げてパイを取り出したのだ。

もう川に流されたのも忘れて、ヤル気満々!

そう! N男ちゃんは釣りよりも、そしてメシよりも麻雀を愛する“雀鬼”だったのである。だから、彼の目的はタダひとつ! みんなから小遣いを巻き上げる事。

今は麻雀をする人が少なくなったが、麻雀ほどエキサイティングで、知的なゲームはないだろう。4人の個性がぶつかり合い、ツキや相性で微妙に流れが変わっていく。コンピューター相手のマージャンでは決して味わえない興奮と勝負の彩、このまま衰退させてしまうには惜しいゲームだ。

麻雀をやると個性が増幅されて、非常に面白いのである。それではここで、ちょっと4人の個性を分析してみよう!

Tomy

得意技は三色同順(サンショク)や一気通貫(イッキツウカン)。主に順子(シュンツ)系の役を得意とする職人肌の麻雀アーティスト。逃げ切りたいとき以外はポンやチーをほとんどしない。14歳でパイを握りはじめた実力派だが、強気が災いして思わぬ大敗を喫することも…。

N男

麻雀がメシより好き。パイを握ると人が変わり、情け容赦のない“雀鬼”と化す。清一色(チンイツ)混一色(ホンイツ)系の強引な役作りを得意とし、冷静なうちは手が付けられないほど強いが、アツクなると振り込みマシンになることがある。みんなそれを知っているからいつも激しく口撃を受ける“イジメられっ子”。

ピカル

質より量を求める男。ゆっくり手作りを楽しむなんてことは彼の性に合わない。三元パイをこよなく愛す“ノミキックの鬼”で、*焼き鳥ルールが得意。

:焼き鳥=半チャン、または誰かがハコテンを食らった時点で1度も上がっていないとき、他のメンツに罰金を払うという特別ルール。

トコロ

何を考えているのかワカラン! 滅多に上がらないが、当たるとデカイ。リーチ、裏ドラ6なんてツキだけの手が得意だから油断していると死を招く。“ツキこそものの上手なれ”。彼にはこんな表現がピタリ。

麻雀は個性のバトルだ! この夜の戦いはまさに死闘と言うにふさわしかった。

半荘(ハンチャン)1回目。トップからN男、Tomy、ピカル、トコロの順。N男が親で清一色を上がって逃げ切った。続いて半荘2回目は Tomy、N男、トコロ、ピカルの順。Tomy が早上がり専門のピカルをカモにし、満貫を2回上がって逃げ切った。

ここまでは、ほぼ実力通りである。しかし、マージャンというのは野球と同じで下駄を履くまで勝負の行方がわからない。3回目に入るとトコロが異様にツキはじめ、強気の Tomy がドツボにはまった。Tomy はN男とピカルを厳しくマークするあまり、トコロに対するガードが甘くなっていたのだ。

リーチ、七対子(チートイツ)、ドラ4(裏ドラ2)。親の*ワレ目で3万6千点。Tomy は前半の貯金を使い果たし、振出しに押し戻されてしまった。よって、この時点ではN男のひとり勝ちである。

:ワレ目=マージャンの特別ルール。自分の前の山から配牌がはじまると、その回は得点も支払いも倍になる。うまく生かせれば高得点、逆ならドツボのスリリングなルールだ。

だがしかし、麻雀の恐さはツキだけではない。本当に恐いのはひとりイジメなのである。ここからはN男対3人組のバトルに突入し、3人組はN男を徹底的にマークしはじめた。

まず、上荘(カミチャ)の Tomy が犠牲になり、N男にポンやチーを絶対させないようにひたすら邪魔をする。そのあいだに他の2人がN男を口撃してN男の冷静さを奪うという作戦だ。

この作戦はまんまと成功した。N男はアツクなって振り込みマシーンと化し、トコロが首位に躍り出て戦いは深夜にもつれ込んだ。0時をまわっても雨は一向にやまない。こうなれば、明日の渓流釣りは絶望的である。4人は窮屈なテントの中でヘッドランプの灯をたよりに延々と麻雀を打ち続けた。

結果はどうなったかというと、長時間戦った割には僅差だったと思う。Tomy、トコロ、N男、ピカルの順で、ピカルが僅かにひとり負け。薄暗いテントの中での麻雀は目の疲労が激しく“骨折り損のくたびれ儲け”というカンジで終わった。そして、フライシートの防水が取れてしまうほどの大粒の雨の中、4人は泥のように眠りについたのだ。

ちょっと一服してから NEXT を押そう。面白い話はこれからだ!