イルカトラズ

サティアン

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「浅墓はあなぐらの中でポカリ飲んで、カロリーメイトを食っていたのか」(麦田)

「そうです。それがインコ教の実態だったのです」(井上)

井上は、なおも浅墓の悪行を暴露し続けた。「私は目が見えない」と言いつつ実は面食いだったとか、空中浮遊写真を Photoshop でねつ造させられた話などは下手な漫才よりも数段面白く、囚人達は井上の話しに吸い寄せられていった。

特に話がインコ・シスターズとの酒池肉林の宴におよぶと、聞く気がない者までも耳をダンボのように広げてしまうほど…。おっと、この先は書いてはいけないのだった。この先は読者の想像に任せることにしよう。

さて、

井上は囚人達の興味をググッと引き寄せておいて、おもむろに空中浮遊体験の話をしはじめた。浅墓は修業が足りなくてインチキ空中浮遊しかできなかったが、井上は30センチほど空中に浮いて静止することができたというのである。

「空を飛べるようになったら、この島から逃げ出せるぞ。本当にできるなら俺にも教えてくれ!」(ケン)

「できるかもしれません。但し、そのためには瞑想するためのというものが必要なのです。まず“空中浮遊はできるのだ”と信じ込むことが何よりも大切です。に邪念が渦巻いているようでは決して成功しないでしょう」(井上)

「家に女房と子供3人が待っているんだ。俺にも教えてくれ!できるようになったら海を飛び越えて家に帰るのだ!」(麦田)

「では、お教えしましょう。皆の心がひとつになれば成功する確率は高まるのです。皆さんはインコ真理教の道場をテレビニュースなどで見たことがありますか? ありますよね。弟子達が蓮華座を組み、一心不乱にヒョコヒョコ飛び跳ねていたのを覚えているでしょう。あれはクンダリニーというなのですが、実は空中浮遊の練習なのです」(井上)

「あれが? あの、くんだらねぇ運動が?」(ケン)

「そうです。しかし、正確に言うとクンダリニーは飛び跳ねると言うよりも尾てい骨を床に打ちつける運動なのです。一見馬鹿げた運動ですが、実は尾てい骨のあたりに眠っているエネルギーを呼び起こすには、非常に有効ななのですよ。浅墓は体重が増えすぎて尾てい骨を骨折しましたけどね」(井上)

再び井上の周りに笑いの渦が巻き起こった。さっきまでは井上の話を聞き流していた連中も、もう我慢の限界である。囚人達は井上を何重にも取り囲み、車座になって井上の話を熱心に聞きはじめた。

「もしできんとしてもナンモせんよりはましや。井上はん、ヨーガ道場をやってみんか?」(ジュン)

「いいでしょう。それでは、我々のいる雑居房をこれからはサティアンと呼んでください。たった今から私がグルになり、体得したヨーガの秘技を皆さんにお教えしましょう」(井上)