イルカトラズ

1通の手紙

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井上がヨーガ道場を開いた翌日は巡視船が来る日であった。いつものように、まず対潜哨戒機P4Cが島の周りの安全を確かめ、それに続いて巡視船が2隻やって来る。

脱獄不可能なこの島の囚人達にとって、巡視船は外界との唯一の接点だった。しかし、その警戒は厳重極まりない。1隻が波止に横づけするとき、もう1隻は沖で機関銃を波止に向けて待機しているのである。

「我々が帰るまで波止に絶対近づくな!」

「近づくものは容赦なく射殺する!」

巡視船のスピーカーがけたたましく鳴り響き、続いて沖に待機している巡視船の機関銃がダダダダダーッと火を吹いた。威嚇のつもりなのだろうか? それとも、ただのストレス解消か? 機関銃は30秒近くも休みなく弾を吐き出してようやく沈黙した。

とても手出しできるスキなどない。囚人達はおとなしく物陰から様子をうかがうしかなかった。すると、1隻の巡視船が急に波止に横づけし、クレーンで素早く荷物を下ろしたかと思うと、瞬く間に波止を離れていった。どうやら今回は新人歓迎会の必要はなさそうだ。

囚人の移送がはじまって早3カ月。毎週10名ずつ、合計12回の移送が行われ、現在島の人口は120名になっている。そろそろ人口過剰を感じはじめていた矢先だったので、むしろその方がありがたい。

新たな囚人はもう送られてこないのだろうか? 巡視船が波止を離れたので囚人達が荷物を取りに行ってみると、段ボール箱に1通の手紙が貼り付けられていた。

イルカトラズ島の皆さんへ

イルカトラズ島への囚人移送は前回で完了しました。これは雨水処理タンクの容量から考えて120名がほぼ限界との判断によるものです。引き続き他の無人島への囚人移送は続けざるを得ない状態が続いていますが、イルカトラズ島に関しては120名を定員とします。

ニャホン国政府は予算の関係上、イルカトラズ島で何が起きても一切感知しません。たとえ重病人が出たとしても、本土の病院に運ぶことはできないので健康には十分注意してください。

今回から食料その他の輸送は1カ月に1度の頻度になります。1日分の食料とプラスティック燃料がセットになっており、余分は一切ないので決められた1日分を守ってください。

なお、島の周辺海域は対潜哨戒機によって常に監視されています。島からの脱獄はあきらめ、健康的な生活を心掛けて刑期を全うしてください。

森田検索のサイン