Hokkaido 1980

ラストシーン

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2度目の知西別には最も期待していた。前回、湖を攻めきれなかった経験を生かし、今回は自作フローターチューブを用意していたのだ。

とにかく、浅場に生い茂るアシの向こう側まで行かないとルアーもフライも役に立たない。ウェーダーを履いても、アシの向こう側が深くて行けないのである。アタシがテント、アンコウがフローターチューブを担いで出発。今回は湖畔に1泊する予定だった。作戦はカンペキだったのだが・・・

知西別川は前年とほとんど変っていなかった。ヘツリの難所を越えたあたりに真新しい土砂崩れのツメ跡があった以外は。おそらくフェリーを追ってきた台風で崩れたのだろう。まだ土砂がドロドロしているようだった。

もうすぐ滝下に到着というところで小雨が降りだす。でも大丈夫。去年、滝下の斜面を上るのに苦労したので、土の斜面を上るためのキャラバンシューズもちゃんと用意していた。

およそ25分で滝上に到着。いつものように爆竹を鳴らしてからフォローターチューブを膨らませる。まず滝上の川をチューブに乗って渡り、チューブをひきずりながら奥の流れ込みへ進む。ここまではシナリオ通りの行動だった。

しかし、自然は2人のシナリオをズタズタに引き裂いた。急に雨脚が強まって、遠くで雷が鳴りはじめたのだ。この辺に金属製品なんてテントぐらいしかないだろう。ここでテントを張るのはあまりにもキケンだ。

「帰ろう」

残念だが仕方なかった。この分では増水して明日帰ることができなくなってしまう。2人は急いで帰り支度をし、転げ落ちるように斜面を下っていった。

一刻の猶予もない。V字谷は瞬く間に増水してしまう。急がなければ!

瞬時の判断は確かだったようだ。未練を捨てきれず、様子を見ていたら帰れなくなっていたに違いない。雨脚は弱まるどころかますます激しさを増した。

濁りが入ってきた。谷が山の水を集め始めたのだ。登ってきたときよりも既に10センチほど水位が上がっている。

ヘツリの難所、さっきまで足場になっていたところが隠れている。水中に隠れた足場を足で探って何とか切り抜けた。続いて大岩に飛び移り対岸に渡るポイント。大岩の頭が急流に飲まれた。

それでも行くしかない。もう戻れない。必死の思いで隠れた大岩に飛び付いた。足元をすくわれそうになるが何とかこらえ、第1の難所を越える。

そして次に、行きは腰までの水位だった徒渉ポイント。来るときは難なく来られた場所だ。しかし、ここまで到達したときには既に川は濁流寸前。水位も30センチほど上がっていた。

「どうする?」

「チロリアン・ブリッジだ!」

胸までの水位、ひとりでは確実に流されてしまう。そこで、有効な手段がチロリアン・ブリッジなのである。ふたりが向かい合って肩を組み、声を掛けあって1歩1歩進んでいくのだ。ひとりだと1歩踏み出せば底についているのは片足のみ。ところが2人で進めば1歩踏み出しても3本の足が川底に接地している。

アンコウのアウトドア知識のおかげで何とか助かった。何度か流されそうになりながらも無事に徒渉することができたのだ。もしひとりずつ渡ったら急流に流されていただろう。アウトドアやサバイバルの本はいくら読んでも損はない。

こうして知西別湖の作戦は終了した。もう日程に余裕がなかったのだ。その後、知西別湖がどうなったかは誰も知らない。もし、これを読んだ人の中で、チャレンジしてみたい人は名乗り出てほしい。

巨大レインボー

巨大レインボーが世代を重ねているかもしれないよ。

終わり


参考文献